フランス料理コンクール入賞者インタビュー

グランドニッコー東京 台場で働く前田大芽は、
クラブ・プロスペール・モンタニェ日本支部主催
「43eフランス料理最優秀見習い料理人選抜コンクール」に
挑戦し、見事総合3位を受賞しました。
受賞された前田さんに、挑戦のきっかけや当日への道のり、そこから得た学びをお伺いしました。
PROFILE
プロフィール
グランドニッコー東京 台場
料飲部 宴会調理/ドレサージュ
前田 大芽
2023年グランドニッコー東京 台場に入社。料飲部洋食調理課 宴会調理に配属。
2024年クラブ・プロスペール・モンタニェ日本支部主催
「43eフランス料理最優秀見習い料理人選抜コンクール」にて総合3位を受賞。

コンクールに出場したきっかけを教えてください
きっかけは、もっとスキルアップしたいという思いでした。普段の業務以上の気づきや新しい刺激を得るために、もともとコンクールやコンテストに挑戦してみたいと思っていました。
そこでシェフに相談したところ、今回参加したコンクールを勧めてもらいました。
このコンクールは、25歳未満・調理経験4年未満という出場条件があり、キャリアの中で一度しか参加できない新人向けの大会です。課題のルセットや制限時間がすべて決まっており、その範囲でどれだけ基本に忠実に、なおかつ個性を出せるかが評価されます。
普段の職場では、講評やコメントをもらってもどうしても先輩の情が加わっているように感じることもありますが、コンクールでは私のことをまったく知らない審査員に「料理そのもの」だけを見てもらえる。自分の実力を客観的に知るチャンスだと思い、挑戦を決めました。
出場を決めてから、どんな苦労がありましたか
参加するまではとても不安がありました。大会では肉料理・魚料理・デザートの3品を決められた時間内で仕上げなければなりません。牛肉の焼きは普段の業務で慣れていましたが、それ以外はほとんど経験がありませんでした。プリンは専門学校の授業以来作ったことがありませんでしたし、私の所属する宴会調理のセクションでは魚をおろす機会がなかったので、「本当に魚をさばけるのか」という心配が常にありました。さらに、肉も魚も短時間でソースを仕上げられるかという点が大きな課題でした。
最初は何から手をつければいいのか分からず、完全に手探り。時間は足りず、段取りもうまくいかず、仕上がりも甘くなってしまう。練習を重ねるほど、不安が大きくなっていきました。
そんな中で大きな転機があったのは本番の2週間前です。この春からホテルに来ているレストラン調理の先輩が、過去に同じ大会で準優勝の実績を持っていたため、練習を見てもらいました。すると「全部やり方を変えないとこの大会では戦えない」と指摘され、使用機材から段取りまで、根本からやり直すことになったのです。大会直前での“全リセット”は本当にきつかったですが、この指導が大きな支えになりました。
そこから自分なりに練習を重ね、何とか時間内に収められるようになりました。次に見てもらったときには「この数日でよくここまで上げてきたね」と褒めてもらえて、とても嬉しかったです。

コンクールについて詳しく教えてください
出場者は20人で、4人ずつ5分おきに調理をスタートする形式です。会場では常に審査員が巡回していて、完成した料理の見た目だけでなく、調理過程や所作まで細かく見られていました。普段の業務とは違い「すべてを見られている」感覚があり、独特の緊張感がありました。
当日特に意識したのは、「練習通りに落ちついて作ること」と「審査員の目を惹くこと」です。緊張すると普段の段取りすら崩れてしまうので、冷静に動くことを心がけました。課題はフレンチで、魚料理は15分、デザートのプリンは25分、肉料理と付け合わせ・ソースは20分と、時間配分が厳しく決められていました。与えられたルセットや完成写真を忠実に再現することはもちろん、工程を飛ばさず進めることが必須。短時間でソースを仕上げる力も試されました。
また、料理は審査員4人でシェアされるため、1人が食べるのはほんのひと口。その瞬間の味の印象が評価を大きく左右します。だからこそ塩加減や下味の均一さがとても重要でした。特に肉料理はソースをかけない状態で食べられるので、下味が評価に直結します。「ここだけ薄い」「ここは濃い」と感じられるのが一番良くないため、塩やコショウ一粒ずつを目で見るくらいの感覚で均等に振る練習を何度も重ねました。仕草や手元の丁寧さに意識を向け、一口で印象が決まる難しさと向き合った期間でした。

魚料理

肉料理

プリン
受賞した時の気持ちを教えてください
本番を終えた時点で「普段通りにできた」という手応えはありましたが、評価についての確信はありませんでした。しかし、発表の場で自分の名前が呼ばれ、総合3位とわかったときは正直驚きました。1位を目指すというよりも「自分の料理を客観的に評価してもらう」ことを目的にしていたので、受賞できたことは大きな自信になりました。
指導していただいた先輩にもすぐ報告しました。本番前にも「楽しんできてね」と声をかけてくださっていたのですが、コンクール翌日に内線で連絡したところ、すぐに駆けつけて「おめでとう」と言ってくれました。その言葉が特に嬉しかったです。家族や友人には、事前に何も伝えていませんでした。ただ、結果が出てから報告すると「初めてなのにすごいじゃん」と驚かれ、改めて受賞の喜びを感じました。

参加したことで身についたスキルはありますか
コンクールを経験して一番変わったのは、「常に見られている」という意識です。本番ではタオルの折り方ひとつまで見られていたので、普段からお客様から見えない部分でも丁寧さを心がけるようになりました。日常業務に戻ってからも自然と身だしなみや所作に気を配れるようになり、今ではお客様の前でも堂々と調理できる自信がつきました。
また、これからのキャリアを考えるうえでも大きな転機になったと思います。私は現在、宴会調理を担当しています。宴会は数百人分を均一に仕上げることが求められる一方で、コンクールは短時間で一品を仕上げる集中力が必要です。今回その環境を経験できたことで、「レストランのように一品にこだわる環境でもやっていける」という新しい自信を得ることができました。
これまで「宴会が自分の道だろう」と思っていましたが、今回の経験でレストラン調理も視野に入れるようになりました。大量調理で培った段取り力に加えて、コンクールで身につけた一品集中の力。この両方を活かせば、私のキャリアの可能性はもっと広がると感じています。

これから挑戦する人へのメッセージをお願いします
まず大前提として、料理が好きであることが一番大切だと思います。コンクールの準備は孤独で、精神的にも追い込まれる時間が多いです。私も私生活まで頭の中がコンクールでいっぱいになり、仕事に集中できない時期もありました。
それでも最後までやり切れたのは、やっぱり料理が好きだから。どんなに疲れていても、食材を前にすると自然と「作りたい」という気持ちが湧いてきて、その気持ちが自分を支えてくれました。
挑戦を通じて得られるものは本当に大きいです。普段は体験できない「審査される」環境に立つことで、自分の弱みや強みを客観的に知ることができますし、料理の基本を徹底的に学び直すこともできます。この短時間で完成度を求められる経験は日常業務ではなかなかなく、もし本番で失敗したとしても、本気で準備した練習期間は自分の糧になります。
だからこそ、もし迷っている人がいたら、一歩踏み出してほしいと思います。もちろん不安や恐怖はあると思いますが、勇気を出して挑戦してみてください。


