ホテルJALシティ東京 豊洲 総支配人

アルバイトからキャリアをはじめ、宿泊・予約部門を中心に
30年以上現場に立ち続けてきた加藤 勉さん。

現在はホテルJALシティ東京 豊洲の総支配人として、
ホテル全体を牽引しています。

グランドニッコー東京 台場での経験や、
ホテルJALシティ東京 豊洲を開業した時のエピソード、
そしてホテル業界で働く醍醐味について伺いました。

PROFILE

プロフィール

ホテルJALシティ東京 豊洲
総支配人 加藤 勉

学生時代に前身ホテルでのアルバイトを経て、1988年に社員として入社。
ハウスキーピングからスタートし、フロントや宿泊予約など宿泊部門を中心に現場経験を積む。

2016年にはグランドニッコー東京 台場の開業に伴い、宿泊部長として着任。
その後、2018年にホテルJALシティ東京 豊洲の開業準備室長に就任。
2019年より総支配人として、経営と現場の両面を支えている。

もともとサービス業に興味はありましたが、ホテル業界に強いこだわりがあったわけではありません。旅行会社なども考えていた中で、前身のホテルでアルバイトを始めたことが、この業界との出会いでした。

アルバイトを続けていると「社員登用の試験を受けてみないか」と声をかけられる機会がありました。当時は夜勤にも入っていて、任される仕事も社員とほとんど変わらなかったので、将来のことを考えたときに、社員として働くことを選びました。

私自身、業界に対する強い憧れがあって飛び込んだというより、気づけば現場に立っていたという感覚に近いかもしれません。けれど、続けていくうちに、だんだんと仕事の面白さや、自分なりのやりがいを感じるようになっていきました。

入社したのはバブル期で、今ならひんしゅくを買うような激しい物言いをされるお客様も珍しくない時代だったので、お客様への応対は非常に難しく、現場には常に緊張感が漂っていました。

そうした状況で辞めていく人も少なくなかった中、私は冷静にお客様の様子を見て対応することを心がけていました。あの時代に鍛えられた体験は、今の自分の心の土台になっていると感じています。

もうひとつ印象に残っているのは、ハウスキーピング時代のことです。自分なりにこだわって整えた客室に対して、「気持ちが伝わった」とお客様から言葉をいただけたことがありました。その方がホテルの専門学校の先生だったこともあり、後に学校でご紹介までしていただきました。細かいところまで丁寧に取り組んでいれば、ちゃんと見てくれている人はいる。その経験が、仕事へのやりがいにつながっていきました。

私は、グランドニッコー東京 台場の開業直後に宿泊部長として着任しました。
当時はインバウンド需要が急増し、チェックインに1時間以上かかることもあるなど、オペレーションに大きな課題を抱えていました。お台場の業績も低迷しており、経営陣からは「なんとか立て直してほしい」と強く求められていたのです。

その頃の客室数は884室で、800名規模の団体予約もある中ですべてのお客様にご満足いただこうと思うと、チェックインだけでなく、ご案内・荷物のお預かり・お問い合わせ対応などを含め、サービス全体の導線を抜本的に見直す必要がありました。例えば、団体と個人のお客様でお待ちいただく場所を分けたり、フロントとロビーの機能を明確に分割したりと、一つひとつ細かいところから効率化しました。

また、スタッフの動きや表情、お声がけなど「接客の質」そのものも改善対象としました。効率だけでなく、お客様にとって心地よい体験を提供するための工夫を重ねたことで、徐々に滞在全体への満足度が高まっていきました。

結果的に、サービス品質の底上げが単価アップにもつながり、業績も回復。
試行錯誤の連続で大変でしたが、現場が少しずつ変わっていく手応えを感じられたことは、大きなやりがいでした。

これまでに何度かホテルの新規開業を経験しましたが、「ゼロからホテルを立ち上げる」というのは、通常の運営とはまったく異なる難しさと面白さがあります。

建物だけがある状態から、コンセプト設計やオペレーション、人材の採用・育成まで、すべてを自分たちで決めて形にしていく。もちろん大変ではありますが、非常に学びが多い機会でした。

実は、ホテルJALシティ東京 豊洲の開業準備室長に就くとき、私が当時担当していた宿泊部長のポジションを誰に引き継ぐかという話になりました。その際に当時課長だった「佐藤に任せたい」と強く希望しました。
私がスタッフに対して厳しく指摘したときには、佐藤が裏でこっそりメンタルのフォローをしてくれるなど、彼とは宿泊部でずっと“二人三脚”でやってきた間柄です。そうした信頼関係があったからこそ、当時は安心して引き継ぐことができました。

※現ホテルJALシティ関内 横浜 総支配人 佐藤 司

私が個人として大切にしているのは、「相手の話をきちんと聞くこと」です。昔から1対1の対話で相手に親身に寄り添うタイプで、悩みを打ち明けられることも多くありました。正直、それが重く感じてしまう時期もあったのですが、やはり人と向き合ううえで、話してもらえる環境をつくることは欠かせないと感じています。気になることがあれば「何か話したいことがあるのかな」という姿勢で接し、相談されたら必ず応えるようにしています。

一方で、組織づくりの面では、正直なところ、今はうまくいっているとは言えません。ホテルJALシティ東京 豊洲は、開業から5年目。スタッフは他のホテルから集まったメンバーが多く、バックグラウンドも様々で、それぞれの価値観ややり方が異なります。意見の食い違いも日常茶飯事で、ぶつかることも少なくありません。
そうした状況の中で私が意識しているのは、「まずやってみる」という姿勢です。マニュアル外のことであっても、現場からアイデアが出たら、まずは試してみる。頭ごなしに否定してしまっては理解も得られませんし、実際にやってみないと何が正解かも分からない。だからこそ、現場の声を尊重し、トライ&エラーを繰り返しながら、一つずつ形にしていくようにしています。

まず、ホテルとしてはお客様が各々の目的を達成できる場をつくることです。気分転換、誰かに会うため、ホテルを利用する理由は人それぞれです。お客様が求めているものを実現できる技術・設備・雰囲気を整えることが、私たちが提供すべき価値につながると考えています。

その先で、私自身が目指しているのは、収益の最大化を図れる新しいビジネスモデルの構築です。既存の「ラグジュアリーホテル/ビジネスホテル」などの枠にとらわれず、お客様のニーズに対して高い価値を提供して正当な対価を得る。そのサイクルを回すことで、さらなるサービスへの投資や、スタッフの賃金への還元ができるはずです。規模の小さいホテルでは、お部屋の価格帯もお給料も、だいたいこのくらいだろうと思われるラインがあるかもしれませんが、私はそこにとどまるつもりはありません。宿泊特化のJALシティでも利益を出すことにこだわって、お客様にもスタッフにも満足してもらえるホテルづくりをしたいと思っています。

そこでまず大切になってくるのはサービスの質です。ここが良くなければお客様にはついてきていただけません。理想に対して現状はまだ追いついていない部分もありますが、そのギャップを埋めるために、今まさに取り組んでいるところです。社内でもこの考えを共有しつつ、新しいホテル運営の在り方を形にしていければと考えています。

私がまずお伝えしたいのは、「たくさん悩んでいい」ということです。何かを目指すとき、悩んだり迷ったりするのは当たり前ですし、誰かに言われたことではなく、自分で感じて決めた選択肢のほうが、納得感を持って進めると思います。焦らず、自分のペースでしっかり考え抜いてください。

ホテル業界はコロナ禍を経て変化しつつあります。かつては「賃金が低い」というイメージもありましたが、今はむしろ改善の流れが進んでおり、将来性のある選択肢のひとつだと思います。スタッフが不足している今だからこそ、チャレンジの機会も広がっています。

そしてこの業界の魅力は、役職が上がることで「現場感を持ちながら自分の理想を形にできるようになる」ところです。一般的には出世すると現場から距離ができたり、調整業務が中心になったりすることも多いですが、ホテルでは上位になるほどサービスそのものをつくる自由度が増していきます。自分が大切にしたい空間や体験を、スタッフと一緒に試行錯誤しながら実現できる。そんなやりがいを感じられるのが、ホテル業界の面白さだと思います。

私はアルバイトからこの業界に入りました。たくさんの経験を積み重ね、今は総支配人として理想のホテルづくりに向き合っています。皆様にも、自分の可能性を信じて、一歩踏み出してほしいです。